ゆったりまったり雑記帳

その名の通り、雑記帳です。

内田慎之介さんインタビュー 「波乱の2023年」

先日お茶会をしたので、その記録を残します。

海外に行ってわかったこと

内田慎之介さんは、もともと商業の漫画家志望だったそうです。しかしなかなかうまくいかず、会社員をしながらデザインフェスタで壁に巨大なマンガを描くというパフォーマンスを2015年から始めました。そしてその活動が徐々に評価され、現在はフリーランスのマンガライブペインター(芸術家)として、今年も数々の国を回って依頼をこなしていました。今年は初めてインドに行ったそうなのですが、インドではカースト制度が今でも続いているため、依頼先のマンガの予備校にもカーストの上位層しか入れないことに衝撃を受けたそうです。旅人は皆自分を見つけるためにインドへ行く、と言いますが「不思議な場所だった」と内田さんも回顧されていました。

またドイツにお仕事で行き、長期滞在していた際も、かなりカルチャーショックを受け、そして何よりも「欧州ではサイバーパンクは生まれ得ない」と再確認した、とお話していました。街中に電線も電柱も無い、雑居ビルも建っていない、景観保護のために洗濯物を外に干さない、そんな街では大友克洋氏(内田慎之介さんはマンガ『AKIRA』の大ファン)の描くようなサイバーパンクは「目新しいもの」「想像もつかないもの」として受け入れられるのだろうと推測されていました。確かに石畳とレンガ造りの家屋が立ち並ぶ空間では「サイバー」というものも想像なんて無理だろうと私も思います。

そして、どちらの国にも共通するのは「漫画のレベルが高くない」「創作する素地が無い」ということ。インドのマンガ専門学校も上手いとは思えなかったし、欧州では美術の予備校の先生が日本のマンガの二次創作をしていて、そのレベルもあまり高くはなく、「日本の同人イベントに参加するメリットがないくらい」だとおっしゃっていました。内田さんがオリジナルの壁マンガを描いていたら、海外の人はまずみんな「それはどのマンガのキャラクターですか?」と尋ねるのだそうです。それに対して内田さんが「自分で作ったものです」と返事すると、「ええ⁉」と驚かれるのだとか。「日本のコミティアに出たら気絶するんじゃないか」と笑いながらおっしゃっていました。

日本の政治に求めること

海外で1ヶ月生活してみて「日本は物価も安く、治安もサービスも高水準で、便利な生活ができる」と気付いた内田さん。それでも日本の「クールジャパン」の政策に対しては疑問を呈していました。海外には、芸術家(アーティスト)が仕事を受けられる、評価される場としてのコンベンションが多く存在しています。でも、日本ではコミコンくらいで、活躍の機会が保障されていないと感じたそうです。実際に海外で仕事をして、日本に拠点を置く人もいるそうなのですが、内田さんも「そうするしかないのかな……」みたいな話をしつつ「同人誌の相場が安いからなのかな?」というようなことを嘆いていらっしゃいました。現在の同人誌即売会では、二次創作のマンガを描いたもの(つまりはストーリーと作画を両方自分で作っているもの)が500円から1000円程度で売られていて、それは海外の水準で言えば低すぎるのだと実感したのだそうです。プロになれるほどの力量を持った人が、赤字覚悟でマンガを描いている。黒字になるのを忌避している。マンガを生み出した国、高いレベルで作画も原作も作れる国、でも保障はされていない。「作画と原作が分業されているアメコミ形式の和製マンガが多くあるなかで、もうマンガをひとりで作れる人間は減っているのに、それを『落書きの延長』のように扱わないでほしい、マンガを守ってほしい」と強く願うお話に胸を打たれました。

これから内田さんは、どんどん海外に行きたい、今度はフォロワーさんが多い南米にもお呼ばれしたらうれしいな! と言っておられました。

2025年は「内田慎之介」として活動してから10周年。個展などいろいろなイベントが企画されているようです、要チェックですよ!