ゆったりまったり雑記帳

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「ロンドンナショナルギャラリー展」レポ【note・ブログ共通記事】

講演会の日付を1ヶ月間違えて記憶していたため、楽しさのキャリーオーバーが発生しています。どうも星野です。定期更新日は火・金・土です(昨日は力尽きてしまったので今日書いています)。この2週間、土曜日は美術展のレポを書いていきます。今回行ってきたのは、上野の国立西洋美術館でやっと開催された「ロンドンナショナルギャラリー」展です。日時事前予約制、優待券を持っている場合は追加料金200円で鑑賞できます。通常料金で大人1800円でした(e+さんでチケット販売中です)。会期は延びたものの、人気の展覧会のためお早めのご予約をオススメします。平日は17時30分まで、金曜・土曜は20時まで開館中。会期中の休み等は公式サイトにて。リンクはこちら。

https://artexhibition.jp/london2020/

参考までにこの展覧会の予習ができる動画の紹介をしたこの記事も貼っておきます。

https://note.com/hoshino1616/n/nccf0b58089b1

ロンドンナショナルギャラリーは、ヨーロッパ諸国・各年代の絵画を集めた一大コレクションが見どころです。イタリア・ルネサンスからフランス近代絵画まで、そのカバーしている領域は多岐にわたります。なんと数年前に同じく上野の東京都美術館で開催されていた「コート―ルド美術館」展ともかかわりがあるのです。イギリスの絵画に対する審美眼というか、「よいものは徹底的に集める」という感じが強く出ていますね。
その中でも気になったものをご紹介していきます。

やたらとFGOに出てくる英霊の作品が多かったな、というのが最初の印象でした。最初がゲオルギウスさんでしたからね。やはりルネサンス期は宗教画、神話のモチーフがたくさんありました。ティントレットの「天の川の起源」は図鑑で見た記憶があり、実物を見られるとは思っておらず、感動しました。最初の方からずっと疑問だったのは、なぜ日本ではここまで精密かつ写実的な(そう、まるで写真のような)絵画が生まれなかったのだろう、ということでした。鳥獣系の絵画は結構写実的で、人物画はそうではない理由や、西洋画との根本的な違いを感じる展覧会だったなと思っています。

レンブラントの自画像については解説動画もありましたが、誰かのために(=依頼されて)絵を描くことが主流だった当時において革新的であり、なおかつその技巧の凝らされ方にも一流の気概のようなものを感じ、見入ってしまいました。
オランダの17世紀絵画は黄金時代と呼ばれていますが、オランダ絵画の特徴は「海景画」が多いことと、少し光がぼやけていること。海運で経済を回していたから、やはりオランダの方は海の絵が好きなのだなと感じました。光のとらえ方はヤン・ステーンとフェルメールでかなり差異が際立ちました。フェルメールはかなり鋭いスポットライトのような光を得意とするのに対し、ヤン・ステーンは曇天のごとく鈍い光を画面に落とし込んでいました。同じ国の出身でもこんなに光に対する考え方が違うのかと勉強になりました。

イギリスは肖像画を愛した国だそうですが、ヴァン・ダイクをはじめとする宮廷画家の描く人物は、皆いきいきとした表情を見せていました。女性の着ているドレスなどのファッションにも注目した鑑賞も楽しいエリアです。所持品や内装などにもこだわり(あるいはメッセージ)が含まれていて、見ていて面白かったです。ドレスの色などに意味があるとのことで、そういうところは日本にもあるよな、白無垢とか、紫は高貴な色とか……と考えていました。やはりこういう時に、知識が点から線へと変わる瞬間があっていいですね。そろそろ美術関連の書籍も買わねば……。

そして18世紀頃からイタリアを訪れる「グランド・ツアー」が流行し始めます。だから今まで見てきた展覧会の絵画の中でも、この頃の作品はイタリアの海岸とか運河とかが多かったのか……とひとりで納得してしまいました。その当時は絵葉書の代わりに「絵画そのもの」を購入していたとのこと。なんて洗練された生活なんだ、と思った矢先に「そうか、ブルジョワ階級が行っていたからお金はあったのだろうな」と合点が行きました。それらの描き込みもかなりのもので、大きめのカンヴァスに細かな背景までみっちりと描かれていて、やっぱり写真のなかった当時「風景を記録する」という意味で絵画を使っていたのだな、と思いました。日本はそれがおそらく和歌だった、ということなのでしょう。

そして場所はスペインへ。エル・グレコやベラスケスなど、宮廷画家の人物画の展示に変わります。かなり武闘派のキリストの絵などもあって愉快でしたが、なんというか、パキッとした色使いと陰影が特徴的な国だなと思いました。特にゴヤ
また、イギリスはベラスケスを再評価したとのことで、絵画も小説もそうですが、時代を先取りしていたために存命時には鳴かず飛ばずということも往々にしてあるのだな、と実感しました。いや、ベラスケスは宮廷画家なので売れっ子だったでしょうが。ベラスケスについては、厨房画と呼ばれる「労働と祈り」をテーマにした作品もありまして、スペインの宗教画としても、寓意としても興味深かったです。

写実からだんだんと離れ始めた美術界は、「ピクチャレスク」(古典的な調和より不規則な自然を志向する動き)を求めます。そこで羊飼いの絵や、ぼんやりとオレンジがかった空の幻想的な絵画が登場し始めます。構図もだいぶ大胆になってきたし、神話からモチーフを採っていてもそこまで直接的な印象は受けませんでした。美術が「美」を求め始めたのかもしれないな、と思い始めました。

アカデミックな古典派を墨守していたイギリスも、コート―ルドの影響でフランス近代絵画を集めるようになります。そこでバラの画家・ラトゥールや(この絵はめちゃくちゃきれいです)、モネ、ドガルノワールを蒐集し始めるのですが……なんとこの展覧会のラストを飾るのは、あのゴッホの「ひまわり」です。これはもう感動でした。ゴッホはアルルでゴーガンとの共同生活を始めるにあたり、ひまわりの絵を2枚描きました。そして直筆サインを入れ、ゴーガンの寝室に飾ろうとしていました。その1枚が展示されているのです。これだけでちょっとテンションが爆上がりでした。ゴッホはアルルで太陽光の黄色に魅了され、ひまわりの絵を7枚描きます。「自分はひまわりの画家になる」――そんなことも言っていたそうです。ゴッホは悲劇的な運命をたどったひとですが、確かに後世では「ひまわりの画家」として認知されていて、本当に良かったなと思いました。

枯れたものから咲き誇るまで、あふれんばかりのいのちの黄色。嫉妬の色とされる黄色のイメージを覆したゴッホの名作でこの展覧会は幕を閉じます。
そこに学芸員さんの演出の素晴らしさや、西洋絵画の持つ歴史を感じることができました。
ひまわりは夏の花。日本らしさも求めたゴッホのひまわりが、この夏、あなたを待っています。

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