ゆったりまったり雑記帳

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「ハプスブルグ展」 レポ【note・ブログ共通記事】

収支計算で頭を悩ませています。どうも星野です。

今回は上野の国立西洋美術館にて開催中の「ハプスブルグ展」に行ってきたよというレポを書きます。

会期は2020126日まで。月曜休館(113日は開館、代わりに114日が休館)、普段は17時まで、金曜と土曜は20時まで開館しています。

かなり人が多いので夜の時間帯をお勧めします。

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看板とフォトスポット

 

ハプスブルグ家は13世紀にオーストリアへ進出した一族であり、神聖ローマ帝国の皇帝の位を独占しました。

その後スペインとオーストリアのふたつに分裂し、スペイン系はアジアやアフリカ、アメリカに領地を持つようになります。

まさに「日の沈まぬ一族」。世界史で習った方もいらっしゃるかと思います。

数多の美術コレクターを輩出した一族の、豪華絢爛なコレクションを観ることができたのはまさに僥倖でした。

友好150周年記念企画、ありがとう。

 

最初はマクシミリアン一世のコーナー。ブルゴーニュ公国から来たマリー妃と共に最初のコレクションを形成します。

彼は芸術を「権力の誇示」のためと捉えていたようで、肖像画の収集に特に熱心だったようです。

彼自身の肖像は甲冑と王冠を身につけ、まさに中世の王侯貴族という姿でした。

他にも甲冑のコレクションが4点ほど展示されていましたが、そのうちのひとつはカーニバルの仮装でも使うもので、腰がギューッと絞られていて着られたものではないなあと思いました。

巨大な宗教画やクラーナハ()の版画も集めており、その緻密な表現には圧倒されるばかりでした。

調度品もあったのですが、椰子の実やほら貝に神秘性を感じていたようで、なかなか面白かったです。

そのなかの「角杯」が毒消しの効果があると言われるグリフィンの鉤爪をモチーフにしているとのことで、伝説が息づいていたことを感じさせてくれます。

 

続いてフェルディナンド二世・ルドルフ二世のコーナー。彼らも一大コレクターでありました。

特にルドルフ二世はクンストカマーという美術品の閲覧室を作り、美術家を庇護したそうです。

ただ何となくこの時代の肖像画はいびつというか、等身がちょっとおかしいのです。肩幅が広すぎて、バランスが悪く……服装の問題でしょうか。それともバロック主義の影響なのでしょうか。考察の価値がありそうです。

特筆すべきは大理石でできた絵画や、精密な金細工。芸術家を大事にするひとのもとに集まった職人の技巧が光ります。

ルドルフ二世は大人気版画家のデューラーがお気に入りだったようで、彼の作品をいくつも手に入れています。相当高値だったのでしょう。

ローマの英雄の絵画もありました。やはりこの時代は宗教画や神話のモチーフが多く、それだけ人々の間で信仰を集めていたのだと思うと、我々の生きる現代でそれらが「信仰対象」ではなく「美術品」になっていることに少しだけ違和感を抱くような気もします。

ガラスケースに入れてただ「きれいだ」と言うだけでなく、たくさんの「想い」「祈り」を背負ったものとして観ていかないと、と気が引き締まりました。

 

面白かったのは「ヨハネス・クルーベルガーの肖像」。彼は成金と悪評が高かったらしいのですが、画家のデューラーが古代風の描き方(円形の画面に横顔)をしたため教養をアピールした、という。いつの時代にもそういう人っているのだなと思いました。

宗教画、神話モチーフなどはやはり当時の流行であり、古代ローマ以降の叡智を再興するルネサンスの影響もあるのではないかと考えました。

宗教画に関しては、政治的な意味合いもあったのかもしれませんが、民間でも広く浸透していたことを感じさせます。

 

続いてレオポルト一世・フェリペ四世のコーナー。今回の目玉作品があるエリアです。

晩餐会の様子など宮廷生活に密着したものが多く、スペイン王マルガリータの肖像も婚約相手のレオポルト一世にその成長を伝えるべく、かの有名な宮廷画家ベラスケスが描いたものだそうです。

私は今回初めて生のベラスケスの絵画を鑑賞したのですが、実物は写真で見るよりやわらかな印象で、陰影のはっきりしたリアルな絵画も描いてはいますが、のちの人物画家に多大な影響を与えたことは間違いないと実感しました。

ルノワールもきっと勉強していたんじゃないか、と勝手に推測しています。

個人的にはカルロ・ドルチの「オーストリア大公女クラウディア・フェリツィタス」が好みでした、物憂げな表情とドレスが可愛かったです。

 

続いてフェルディナンド・カールとティロルのコーナー。彼らもコレクターだったそうですが、後継者がいなかったという不遇の王族です。

私が注目したのはチェーザレ・ダンティーニの「クレオパトラ」。もとは悲劇の女性としてアルテミシアと対を成す作品だったとのことで、自らを毒蛇に噛ませて息絶える瞬間が克明に描かれていました。

悲劇的なものを美に高めるのは、いつの時代も、洋の東西を問わず、メインストリームなのだなあと実感しました。

 

続いてレオポルト・ヴィルヘルムのコーナー。ヴェネツィア派の作品を蒐集したことで有名です。

ここで注目したのはヴェロネーゼの「ホロフェルネスの首を持つユディト」。私の愛するクリムトも題材にしたものですが、かなり印象が違います。

なんだか優雅で、落ち着いた雰囲気のあるユディトでした。これもまたよき。

そしてこの時代にひときわ輝いていたのがティツィアーノ。色彩感覚と「生き写し」と称されるほどの写実性が特長です。ものすごく素敵でした。

またブリューゲル()の宗教画もありましたが、だいたい主題は小さく描かれているなあと思っていて、もっと自然を描きたかったのかなあと考えています。もっと後の時代に生まれていれば評価も変わったかもしれません。

ここから民衆や静物、花など主題が少しずつ変わり、また宝石細工や陶磁器のコレクションも登場します。

ヴィルヘルムはネーデルランド総督ですが、その日常的な風景も愛していたのでしょう。

 

最後はマリア・テレジアからハプスブルグ家滅亡までを一気に見ていきます。

相変わらず肖像画が中心ですが、そのコレクションに命を懸ける姿勢はむしろ増していると言えるでしょう。

マリー・アントワネットなどは気に入る肖像画を描いてくれる画家がおらず、母マリア・テレジアに送ったコレクションもかなり苦労して制作されたようです。

アントワネットは真っ白なドレスを身に纏い、高貴で優美な印象を与えます。彼女が断頭台の露と消えたのを、この肖像画を観た後に考えると胸が痛みます。

同じく悲劇の女性エリザベトの肖像で本展覧会は終わるのですが、それも悲しさを感じさせないあたたかさがありました。

 

この展覧会で私が特に印象深いと思ったのは、「名もなき存在」が絵画を残し、現在に伝わっているという事実の重みでした。彼らは歴史上に名前を残すことはできませんでしたが、絵画でその生きた証を刻み付けることに成功しています。それを応援していたひと、高く評価したひとがいてこそ、現在のハプスブルグ家のコレクションは成り立っているのだと思うと、歴史は常に勝者が綴ったものなのかもしれない、けれども同時に「わたしはここにいる」というメッセージを全力で残すこともできるのだと確信しました。

 

栄枯盛衰、移りゆくもののなかで変わらない「美」を追求したその志の高さに感動しました。

残り2週間くらいの会期ですので、ぜひ。

 

今回はこれでおしまいです、それでは、また。