夕飯のおかずに、美味しいお味噌汁が作れました。どうも星野です。
今回は12月8日に鑑賞した「リヒテンシュタイン侯爵家の至宝」展のレポを書いていきたいと思います。
大人気につき会期延長とのことで、12月26日まで渋谷のBunkamura ザ・ミュージアムで観られますよ。
開館時間は10時~18時、毎週金・土曜日は21時まで開館しています。終了まで無休です。ネットでQRコードを表示するオンラインチケットがとても便利です。
リヒテンシュタイン公国は今年で建国300年。テーマは「ヨーロッパの宝石箱」ということで、壮麗なコレクションが一堂に会しています。
このような展示は今回で2回目だそうで、なかなかレアな展覧会なのです。
リヒテンシュタイン公国は、世界で唯一「氏(うじ)が国の正式名称」という珍しい国家です。
「農夫から銀行家へ」という比喩があるそうで、農業で立国してからハプスブルグ家と結びつき、オーストリア支配を援助したそうです。
今回の展示でも、リヒテンシュタイン公国の中世~近代における栄華を代表する絵画や陶磁器が、数多く展示されています。
まずは肖像画・人物画のコーナー。
ヨハン・アダム・アンドレアスⅠ世という人が、肖像画や陶磁器などを蒐集したコレクターだったとのことで、まずは彼の肖像から。
すごくのびのび、いきいきした人物画が多いなあという印象を受けました。
子ども(もちろん貴族ですが)特有の、あの愛らしいほっぺの感じやきらきらした瞳がリアルに描き出されていました。
屋内や野外で行われたコンサートの様子や晩さん会の様子などもあり、リヒテンシュタインという国が(上流階級だけであったとしても)豊かになりつつあったことが伺えます。
バロックの時代では動物の絵が盛んに描かれ、リヒテンシュタイン公国では馬の世話係が特別な使用人として重用されていたことと合わさって、馬丁の絵画などもありました。
動物も生命感にあふれ、画家の思い入れの強さとでも言ったらいいのでしょうか、描く対象をきらびやかなまま残したいという気持ちが伝わってくるようでした。
続いて、宗教画のコーナー。
ちょうど宗教と芸術が結びつき、聖書の証明を絵画が行うことによって信仰をあつくするという効果を狙っていたようです。
アダムとエヴァ、ダビデ、東方三博士、聖母子……絵画の基本的な知識(赤と青の服を着ていたら聖母マリア、とか)があるとよりいっそう楽しめます。
ここで私が注目したのは、クラーナハ(父)の『イサクの犠牲』です。
なぜか主要場面が遠景に描かれていて、すごく不思議でした。
イサクの伝承そのものも、そんなに日本ではメジャーではないのかもしれませんが、供物を捧げるという極めて宗教性の強いものを遠景にしたクラーナハの意図がとても気になる作品です。
同じく作者の意図が隠されたものに関して言えば、ルーベンスの『聖母を花で飾る聖アンナ』も解釈が分かれるので面白いと思いました。
聖母の結婚の様子なのか、神殿奉献の様子なのか……いまだに議論されているというから興味をそそられますよね。
あと個人的に好みだったのあが、ダニエル・グランの『貧者に施しを与えるポルトガルの聖イサベル』でした。
祭壇に描くための習作だったそうですが、躍動感があってすてきでした。
人気どころのモチーフから解釈の多様なものまで幅広くカバーしているところに、蒐集家の審美眼の高さを感じずにはいられませんでした。
そのまま神話画・歴史画のコーナーへ。
人文的素養が芸術界に浸透した、ルネサンス期を経た作品が中心になります。
『ヘラクレスの神格化』では実際の街並みに幻想的なシーンが重ねあわされていて、なぜか惹きつけられました。
そしてこのコーナーからは陶磁器も出品されているのですが、焼物の完成度がとても高くて感動しました。
精密な絵付に関しては後述しますが、『デキウス・ムス連作』という、原画をもとにした絵皿があるのですが、これは一見の価値ありです。
連作なので当然ここに展示されているのは一部ですが、ペルセウスとアンドロメダの出会いの様子を描いています。
これとオウィディウスの『変身物語』が内容的に相似の関係にあるとのことで、古代ギリシア文学も気になるところです。
他にも肌の艶や衣装の配置が絶妙なマジョットの作品も観られます。
歴史や神話を語り合う楽しさを、この時期の人々は共有していて、その感覚を私たちも味わえているのがとても嬉しかったです。
そして東西交流のコーナーとウィーンの磁器製作所のコーナーへ。
ここでは豪華絢爛な焼物の数々を観ることができます。
舶来の有田焼や柿右衛門に、金具を付けてティーポットにしたりキャンドル立てにしたりアレンジを加えていたことが分かるのですが、その金具の美しさと陶器の色艶が絶妙にマッチしていて素晴らしかったです。
そしてそれらが描かれた静物画もあり、大変感動しました。
だって、生で目の前に存在しているものが、時を超えて絵画に描かれているんですよ!?
作品自体の完成度の高さもそうですが、作品内に出てくるものが実在しているだけでこんなにテンションって上がるのか……と我ながらびっくりしました。
ウィーンでも舶来のものを真似た焼物が登場し、アラベスクやトランプ柄など、かわいらしい作品が多くて胸が躍りました。
続いて風景画のコーナーへ。
17世紀からは貴族だけでなく市民階級も絵画を購入するようになり、画家は専門性を高めていきます。
いわゆるビーダーマイヤーの時代ですね。
ここにはあのブリューゲル(父)の作品もありました。贋作が大量に流通した人気画家。
彼の作品は、こぢんまりとしたなかに西洋独特のカラッとした気候の様子が繊細に描写されています。
それを絵付けしてお皿やカップにしたものもありました。どれも装飾性が高く、美しいです。
ヴェドゥータ(都市景観図)に関しては、ウィーンモダンでも触れられていましたが、やはり流行だったようですね。
個人的には最初の屋外制作者の一人・ヴァルトミュラーの澄んだ空気感が気持ちよさそうでいいなあと思いました。
最後に本展覧会の目玉、花の静物画のコーナーへ。
もうここは一面花、花、花。自然を忠実に描くこと、そしてゴージャスに描くことを目指していたことが見て取れます。
同時期に咲かない花でも画面に取り入れてしまうのですが、そんなことは気にならないほど圧倒されます。
花の絵画そのものはビーダーマイヤーで隆盛を極めたのですが、繊細な色彩と純粋な華麗さに心惹かれた人々はさぞ多かったのだろうと推察されます。
このエリアは写真OKなので、もうフォルダをお花で埋め尽くしてください。その豊かな色彩と麗しさにため息が出ますから。
今回リヒテンシュタイン公国の至宝を観てきましたが、特に世界史を専門的には学んでいない私にとっては「それ地図のどこにある?」から始まったのですが、非常に興味深い展覧会でした。
それはリヒテンシュタイン公国とオーストリアとの関係が深く、この1年をかけて学んできた「ウィーンモダン」を中心にした知識が活きたためでした。
反知性主義、教養批判などと叫ばれてる昨今ですが、教養はじゅうぶん人生を愉しむのに活用できますし、その文化的資本にアクセスできる環境を整えることも重要だと思いました。
教養はひとを救うのです、おそらくは。
教養を身につけていれば何かのきっかけで使えるかもしれないし、使わなくても思い出すだけで心は慰められると思うのです。
だからこそ表現の自由は守らねばなりませんし、学校教育の場が侵されてはならない。
そのことを強く感じた展覧会でもありました。
次回はミュシャになるかと……忘年会のラッシュでお財布に余裕があればですが。行きたい。
それでは、また。