ゆったりまったり雑記帳

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「1894 Vision」レポ【note・ブログ共通記事】

楽しいことはおすそ分けしないと、バチが当たります。どうも星野です。今日は展覧会のレポです。三菱一号館美術館で開催中の「1894 Vision」に行ってきました。

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展覧会の概要から。この企画展は三菱一号館美術館の開館10周年を記念して行われているものです。10月24日から始まっていて、来年1月17日まで鑑賞できます。コンセプトは、丸の内初のオフィスビルとして三菱一号館が竣工した「1894年」に活躍していた画家の軌跡です。二大巨頭は、この美術館のコレクションの中核をなすオディロン・ルドンとアンリ・ド・トゥールーズ=ロートレック。そして日本でも西洋画を学び始めた時期でもありますので、それらの作品も複数展示されています。開館時間は10時から18時、祝日を除く金曜日と第2水曜日は21時まで開館しています。第2水曜日には17時以降のお得なチケットも発売中。12月31日と1月1日は閉館、12月28日と1月4日は開館するそうです。この美術館はショップもカフェもおしゃれで、料理もおいしいし、おみやげものも洗練されているし、私は1日中いられると思っているのです。そう、最推し美術館。

私が初めてルドンの絵画を見たのが、確か数年前の「怖い絵」展。そのクトゥルフ神話っぽさのある世界観に引きずり込まれ、狂気的すぎる! 怖い! めちゃくちゃ創作意欲が刺激される! と大興奮しまして、果てはルドンをモチーフにシナリオを書くところまでいったのです。そんなルドンは特段好きな画家、というわけでもありませんでした、昨日までは。
今日出会ったルドンの絵画のなかには、もちろん暗い昏いもの(真っ黒なリトグラフの作品、夢の世界の一場面を描いたもの)があり、やっぱりどこか恐怖をかき立てるのよね、なんて思っていたのですが、見事にその先入観を打ち壊してくれました。
本展覧会の目玉作品の一つ、「グラン・ブーケ」を見たときに、私は静謐な、それでいてもの凄い威力の感動の嵐の中へと放り込まれました。
キャンバスいっぱいの花、ブルーの花瓶にめいっぱい活けられたカラフルな花……今までのルドンへのイメージが一変したのです。ちょっと精神的に弱っているのではないかと思うほど怖い作品を描いていたルドンが、真っ黒な版画、リトグラフの世界からパステルの世界へと移行し、その全身全霊すべてをかけて描き出した生命感、透明感、何より光の輝きに目を奪われました。
ルドンの心境に何の変化があったか、私は知る由もありません。今から100年も前に生きていた、自分とは似て非なる存在の考えたことなど、わかるはずもありません。それでも私は、彼の心の中を覗いてみたくなりました。どうしてあの真っ暗闇の世界から、一筋の光を見つけて、それをたどっていけたのか、私はとても興味があります。ルドン、いいですね。光と闇の落差が素晴らしい。人間の中の混沌、神秘の世界、夢の世界を描いたルドンのことが一気に好きになれました。数年前のルドン展も行けばよかった。

もう一人の巨匠、ロートレック。レタリングの文字が好きな画家第2位です。1位はもちろんミュシャ。しかしそのアールヌーヴォーの旗手・ポスター制作の名手である「画家としてのミュシャ」の誕生に至るまでには、やはりロートレックがいたのだなと思いました。
その当時次第に力を持ち始めていた中流階級の心をつかんだ作品を多く生み出し、版画(カラー刷り)で夜の街の人間を情緒あふれる筆致で描いたロートレック。特にムーラン・ルージュの場面を描いた作品が気に入りました。いるいる、大衆向けの居酒屋とか歌舞伎町あたりの場末のスナックとか、そういうところに……という人々の姿を活写していて、鋭い観察眼に唸りました。それをおしゃれな芸術作品に仕上げてしまうところも天才たるゆえんでしょう。36歳での夭折が本当に惜しまれる人です。ロートレックの作品に出てくる人々と、それを描いているロートレック自身の、なんというか、人間の中にある綺麗な部分と穢い部分と、清濁併せ吞む感じが好きです。ロートレックも決して人間嫌いじゃないと思うのですよね、あれだけ人間に批評的な目を向けて、風刺っぽい作品も残しているけれど、やっぱり人間を描くことをやめなかったのはそういう理由があるからだと思います。

文学作品と同様に、歴史や文化を種とする美術作品も、その時代・国家・文化のコンテクストの中に位置づけられます。ルドンがパステルの世界へと飛び出し、ロートレックが「ディヴァン・ジャポネ」や「コンフェッティ」などを制作していた頃、日本でも抑圧されていた洋画家たちが反撃に出ていました。山本芳翆の「浦島」が制作されていたのもこの時期です。この「浦島」ですが、あの浦島太郎の物語をモチーフに、西洋画の手法で描き出すというなかなかロックなことをやっているなと感じました。その後「明治美術会」が発足し、日本の画壇でも洋画家の占める位置が少しずつ増えました。西洋と東洋、交わることのなかった世界が出会って、新たなムーヴメントを起こすって、なんだかとってもかっこよくて素敵だと思いました。

絵画を見るときに、その時代の人はどう評価したのか、という観点も重要だと思うのですが、後世の人間、そして何より主観の「わたし」がこの作品とどう向き合っているかを考えるのは重要なのだろうな、と考えました。私はルドンの「グラン・ブーケ」を崇めるような気持ちで見つめていましたが、それは私がルドンの人生や心境の変化に興味を持ったからで、それを形作ったのは今までの経験で……そして、ルドンやロートレックが絵画を描くのも、誰かの影響だったりするわけです。その「運命の交錯」みたいなものを感じられる、充実した展覧会でした。会期残りわずかです、皆様ぜひ。それでは、また。